研究助成

2022年度 生命科学研究助成

扁形動物“原始脳”の単一細胞トランスクリプトーム解析からひもとく神経内分泌系の進化とその原型

研究題目 扁形動物“原始脳”の単一細胞トランスクリプトーム解析からひもとく神経内分泌系の進化とその原型
年度/助成プログラム 2022年度 生命科学研究助成
所属 岡山大学 理学部附属臨海実験所
氏名 坂本 浩隆
キーワード 扁形動物ヒラムシ / 原始脳 / 神経内分泌系 / 進化
研究結果概要 海産扁形動物ヒラムシの中枢神経系を、SPring-8のX線マイクロCTで3次元解析した。リンタングステン酸染色により1.0-1.2 µmの分解能で細胞レベルの神経構造を可視化し、従来の組織切片法では困難な歪みのない連続断面画像を取得した。頭部神経節として脳に相当する集中化した神経組織を確認し、昆虫・甲殻類と類似したキノコ体様構造を発見した。この構造は球状細胞塊と関連神経束から構成され、学習・記憶機能に関わると考えられ、淡水プラナリアにはない海産種特有の特徴である。左右の視神経が正中線で合流する視交叉様構造も観察され、哺乳類と類似しており立体視に重要な役割を果たす可能性がある。頭部神経節から放射状に伸びる6対の神経索も同定した。3次元解析により、キノコ体関連神経束が視神経より腹側に位置し、異なる感覚情報処理経路の機能的分離を示唆することが判明した。これらの発見は、ヒラムシが原口動物と後口動物の中間的特徴を示す脳構造を持ち、左右相称動物の神経系集中化初期段階を理解する重要な知見となる。
公表論文 Volume X-ray micro-computed tomography analysis of the early cephalized central nervous system in a marine flatworm, Stylochoplana pusilla. Zoological Science. 2024 Jun;41(3):281-289. doi: 10.2108/zs230082.