研究助成

2022年度 ライフサイエンス研究助成

刺胞動物をモデルとした睡眠制御因子の網羅的同定

研究題目 刺胞動物をモデルとした睡眠制御因子の網羅的同定
年度/助成プログラム 2022年度 ライフサイエンス研究助成
所属 九州大学 基幹教育院自然科学実験系部門
氏名 伊藤 太一
キーワード 刺胞動物 / ヒドラ / 睡眠様状態 / 睡眠制御
研究結果概要 本研究では、神経系の構造が極めて単純な刺胞動物ヒドラをモデルとして、睡眠制御因子の網羅的同定とその進化的保存性の検証を目的とした。まず、ヒドラが血液脳関門をもたず、体表から化合物が容易に取り込まれる特性を活かし、約700種類の化合物を用いた表現型スクリーニングを実施した。睡眠量、エピソード数、1エピソードの持続時間など複数の指標に基づき、行動変容を誘導する化合物を抽出し、睡眠制御因子の候補として選定した。次に、化合物処理により強制的に入眠させた個体を対象にトランスクリプトーム解析を行い、亜鉛輸送体や結合タンパク質関連の遺伝子群における発現変動を検出した。さらに、ヒドラおよびショウジョウバエを用いた薬理学的・遺伝学的操作により、体内亜鉛量と睡眠量との間に正の相関が認められた。また、神経密度の異なる体部位を用いた切断実験では、睡眠の周期性や刺激応答性に部位特異的な差異が観察され、睡眠制御機構が階層的に構成されている可能性が示唆された。これらの成果は、神経系の進化以前から存在する睡眠制御因子の普遍性を支持する新たな基礎的知見となった。
公表論文 Effect of temperature cycles on the sleep-like state in Hydra vulgaris.,
Zoological Letters., 11 (1), 2., 2025.