武田医学賞
2021年度の受賞者
The Takeda Prize for Medical Science 2021
藤木 幸夫 博士
九州大学 名誉教授
ペルオキシソームの形成と欠損症研究によるオルガネラ病概念の確立
ペルオキシソームは脂質代謝や過酸化水素の生成・消去系など様々な生物学的に必須な代謝機能を担う細胞小器官(オルガネラ)である。藤木博士は、ペルオキシソーム形成が異常な10数種の細胞株を樹立し、それらを用いて、ペルオキシソームの形成に必須な数多くの因子(ペルオキシン)を発見、ついで重篤かつ原因不明であったペルオキシソーム欠損症の病因遺伝子を網羅的に解明することに成功した。さらには、モデルマウスを用いてペルオキシソーム欠損症の病態発症機構も解明した。最近では、ペルオキシソーム酵素である過酸化水素分解酵素、カタラーゼが酸化ストレス下には細胞質へ集積して細胞死を抑制する機構、すなわちカタラーゼのオルガネラとサイトゾルの両局在を基軸とした極めて重要な生理作用調節の存在を発見した。これら一連の研究成果はペルオキシソーム欠損症を遺伝子、分子および個体レベルで解明するとともに、ペルオキシソームに新しい視点を与える独創性が非常に高く、オルガネラ恒常性(オルガネラスタシス)とその破綻によるオルガネラ病という新しい概念を創生し、大きな波及効果を生み出した。このように、藤木博士の業績は世界に誇るオンリーワン研究であり、この分野の開拓者として国際的な評価は極めて高い。
略歴と研究業績
松島 綱治 博士
東京理科大学 教授
ケモカインの発見による白血球浸潤機序の解明と創薬への貢献
生体侵襲に対する防御反応としての炎症において特異的白血球サブセットの組織浸潤が起こるが、長くその分子機序は不明であり炎症・免疫学における大きな謎であった。松島綱治博士は、1980年代の後半に急性炎症の主役である好中球並びに慢性炎症の主役である単球・マクロファージの遊走因子として、活性化白血球・組織細胞が産生するIL-8/CXCL8とMCAF/CCL2を精製・遺伝子クローニングを通して発見した。その後、様々な急性炎症モデルにおいてCXCL8が炎症組織への好中球浸潤に、慢性炎症モデルにおいてCCL2が単球浸潤に関わり、これらの阻害により臓器障害を防止できることを明らかにした。炎症・免疫反応時の最も基本的現象である特異的白血球の組織浸潤機序が、博士のケモカインプロトタイプ、CXCL8とCCL2の発見とその後の動物での炎症モデルでの薬理学的実証研究により解明された。博士は、さらにケモカイン受容体CCR4に対する抗体を作製し、CCR4が成人T細胞白血病(ATL)細胞に選択的に発現することを見出し、2012年には抗CCR4抗体がATLの治療薬として承認された。このように、松島博士は炎症に伴う白血球浸潤機序を解明し、それを基盤とした創薬開発研究と生命科学研究、医学研究に大きく貢献した。
略歴と研究業績