武田医学賞
2023年度の受賞者
The Takeda Prize for Medical Science 2023
上田 龍三 博士
名古屋大学 特任教授
成人T細胞白血病・リンパ腫に対する抗体医薬開発のトランスレーショナル・リサーチ
1977年に高月清博士らにより発見された成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)は、HTLV-1ウイルスの感染により発症する予後不良な血液のがんである。上田龍三博士は、ATL患者の90%以上にケモカイン受容体CCR4が発現していることを発見し、CCR4がATL特異的マーカー分子であることを見いだした。その後、同分子を標的とする治療薬の開発に着手し、抗体のFc領域のフコースを除去することで抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を飛躍的に向上させた抗CCR4抗体が、ATL細胞に対する高い薬効を示すことを確認した。さらに自ら臨床開発の統括責任医師として第Ⅰ相及び第Ⅱ相治験を主導し、同抗体の臨床的有用性を証明した。研究者として標的分子を発見し、しかもその治療薬を治験責任医師として薬事承認まで導いたのは、日本の長いがん研究史上、上田博士のみと言える。日本初の抗がん抗体医薬品モガムリズマブは、治療困難であったATL患者の第一治療選択薬となり患者やその家族に福音をもたらしたのみならず、創薬開発過程における抗体作製、前臨床研究、治験、薬事承認、コンパニオン診断薬開発に至る産学共同研究のロールモデルとなった。上田博士はがんトランスレーショナル・リサーチ(TR)の発展に多大な貢献をした。
学歴・職歴
- 1969年3月
- 名古屋大学医学部卒業
- 1969年4月~1972年5月
- 名古屋大学医学部合同内科入局
- 1972年6月~1976年8月
- 名古屋大学医学部第一内科入局
- 1976年9月~1980年8月
- ニューヨーク・スローン・ケタリングがん研究所(客員研究員・研究員)
- 1980年9月~1995年8月
- 愛知県がんセンター研究所 化学療法部(主任研究員・室長・部長)
- 1981年10月
- 医学博士(名古屋大学)
- 1995年9月~2002年3月
- 名古屋市立大学医学部第二内科 教授
- 2002年4月~2007年3月
- 名古屋市立大学大学院医学研究科・臨床分子内科学 教授(部局化による名称変更)
- 2003年4月~2007年3月
- 名古屋市立大学病院 病院長(兼務)
- 2007年4月~2010年3月
- 名古屋市立大学大学院医学研究科 腫瘍・免疫内科学 教授 (内科再編成)
- 2008年4月~2012年3月
- 名古屋市病院局 局長
- 2008年4月~2012年3月
- 名古屋市立大学 理事
- 2008年4月~2016年3月
- 名古屋市立大学 顧問
- 2010年4月~2012年3月
- 名古屋市立大学大学院医学研究科 特任教授
- 2010年4月~現在
- 名古屋市立大学 名誉教授
- 2012年4月~2014年3月
- 国立がん研究センター 理事長特任補佐
- 2012年4月~2020年3月
- 名古屋市病院局 顧問
- 2012年4月~2022年3月
- 愛知医科大学医学部 腫瘍免疫寄附講座 教授
- 2013年1月~2016年1月
- 愛知医科大学 評議員
- 2016年4月~2020年3月
- 名古屋市立大学 特任教授
- 2016年6月~2022年1月
- 名古屋市立大学 客員教授
- 2018年11月~現在
- 名古屋大学 特任教授
- 2022年4月~現在
- 名古屋大学大学院医学系研究科 特任教授
- 2022年4月~現在
- 愛知医科大学 名誉教授
受賞歴
- 1995年1月
- 読売東海 医学賞
- 2009年3月
- 加藤記念 特別枠研究助成
- 2009年10月
- 日本癌学会 吉田富三賞
- 2009年11月
- 佐川特別研究助成賞
- 2012年2月
- 高松宮妃癌研究基金学術賞
- 2012年9月
- 日本癌学会 JCA-CHAAO賞
- 2015年3月
- 日本薬学会 創薬科学賞
- 2016年4月
- 文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)
- 2017年5月
- 紫綬褒章(春)
略歴と研究業績(詳細)
後藤 由季子 博士
東京大学 教授
細胞運命を制御するシグナル伝達の解明
細胞の増殖は増殖因子によって厳密に制御されており、その制御が破綻し暴走するとがん化する。後藤由季子博士は、細胞の増殖因子が受容体に結合したのちに核内へと「増殖シグナル」を伝達する分子としてMAPキナーゼとその活性化因子の同定に貢献した。またストレスで活性化されるMAPキナーゼ類似因子(JNK)および原がん遺伝子産物AKTについて、細胞死・生存および細胞移動・浸潤を司るシグナル伝達におけるそれぞれの制御機構と機能を明らかにした。これらの研究は細胞内シグナル伝達のプロトタイプとして細胞運命制御機構の理解に貢献しただけでなく、その異常がいかにしてがん化に繋がるかを理解する上でも重要な貢献と言える。後藤博士はさらに、脳発生という組織形成のコンテクストにおける細胞の振る舞いを研究し、神経幹細胞が発生時間と場に依存して巧妙に運命制御されるメカニズムをいくつも解明した。また定説に反して、胎生期における成体神経幹細胞の起源細胞が脳発生に携わる神経幹細胞とは別系譜であることを示し、胎生期と成体期の組織幹細胞の異なる機能制御戦略を明らかにした。これらの研究は幹細胞を用いた再生医療や健康寿命を目指す上で重要な基盤的知見を提供したと言える。
学歴・職歴
- 1987年3月
- 東京大学理学部生物化学科卒業
- 1989年3月
- 東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修士課程修了(酒井彦一研究室)
- 1991年4月
- 日本学術振興会特別研究員(東京大学理学部生物化学教室)
- 1992年3月
- 東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻博士課程修了(酒井彦一研究室)
- 1992年3月
- 理学博士(東京大学)
- 1993年7月
- 京都大学ウイルス研究所 助手(西田栄介研究室)
- 1996年10月
- Fred Hutchinson Cancer Research Center研究員(Jonathan Cooper研究室)
- 1997年5月
- Harvard Medical School/Children's Hospital研究員(Michael Greenberg研究室)
- 1998年4月
- 東京大学分子細胞生物学研究所 助教授
- 2002年9月
- 岡崎国立共同研究機構生理学研究所客員助教授併任(2003年3月31日まで)
- 2003年4月
- 国立遺伝学研究所客員助教授併任(2006年3月31日まで)
- 2005年4月
- 東京大学分子細胞生物学研究所 教授
- 2013年10月
- 東京大学大学院薬学系研究科 教授(現在に至る)
- 2017年10月
- 東京大学国際高等研究所 ニューロインテリジェンス国際研究機構 主任研究員併任(現在に至る)
受賞歴
- 2003年
- 日本分子生物学会三菱化学奨励賞
- 2004年
- 日本癌学会奨励賞
- 2010年
- 日本学術振興会賞
- 2010年
- 日本学士院学術奨励賞
- 2010年
- 塚原仲晃賞
- 2013年
- 安田記念医学賞
- 2014年
- 井上学術賞
- 2014年
- 長瀬研究振興賞
- 2014年
- 木原記念財団学術賞
- 2020年
- 紫綬褒章(秋)
略歴と研究業績(詳細)